You know 結納?(結納の法的性質)

下宮 憲二

こんにちは、広島事務所の下宮憲二です。

 とあるカップルが、「結婚したいんですが、何故だか両親が反対しています。どうすればいいでしょうか。」と法律相談に来られたとします。「憲法24条1項には、婚姻は両性の合意のみに基づいて成立するとありますので、お二人の合意があれば法律上何の問題もありませんよ。」と答えれば解決のはず。ですが、それはあくまで法律上の話、これだけでは二人の問題は解決しそうにありません。

 先日、とある実務家が相手方の両親に挨拶に行くことになったらしくその後どうなったのか気になって考えてしまいました。

 これまで数多くの結婚式に招待して頂き、両家の幸せそうな場面だけを見てきたのですが、そこに至るまでには様々なドラマがあったんだろうなぁと今更ながら思います。

 法律上は、両性の合意のみで成立する結婚ですが、実際にはそれだけでは済まないようです。例えば、結納。結納とは、結婚の約束に伴なう儀式の一つで、婚姻により両家が親族となり「結」びつくことを祝い、贈り物を「納」め合う儀式と言われています。

 二人の間では、省略してもいいやと考えていたとしてもこと家同士のお付き合いとなるとそうはいかないようです。この結納の際に、いわゆる結納金というものが、迎える側から迎えられる側へ贈られることになっています。物の本によると、給与の2~3ヵ月分に相当する額が現在の相場だそうです。これだけで、結納実施への委縮効果が十分な気がしますが、この結納金の性質について考えてみました。

 学説上は、手付説(婚約の証として贈られるものとする考え)や贈与説といった考えがあるようですが、一般的には、結納金は、今後結婚生活をしていくまでにかかる準備金として相手方へ贈られるもの(贈与)になると考えられます。民法上、贈与契約は履行が終わった部分については撤回ができませんので、一度納めてしまうと法律的にも戻ってこないものとなってしまいます。これだと、婚約指輪は離婚後に返還する義務はなさそうです。
 ただ、結婚することを前提に納めるのが当事者間での合意になっていると言えますので解除条件付きの贈与(結婚が不成立の場合には解除することができる贈与)と考えられています。 
 また、手付というよりも結婚してもらうことの対価として渡すものと捉えることも可能かと思いますが、何か個人の尊厳と両性の本質的平等に反するような感じがします。
 では、結婚に至らない場合にはもらえない物という特徴から、結納金を結婚という仕事の完成を目的とした報酬と捉えられないか。まぁ、確かに結婚と言うのは人生における一大イベントですので結婚請負人がいてもおかしくはないですが、それは仲人さんとの関係ではないかと思います。
 そこで、準委任契約の報酬と捉えることはできないでしょうか。婚姻に向けての準備に全力を尽くすことの報酬として受け取るという捉え方ができますし、相手方の責任により婚姻に至らなかったとしても既に履行した割合に応じて報酬を受け取ることができますので、結納の返還でもめなくてもいいかもしれません。
 でも、一方当事者だけが婚姻準備に奔走し、もう一方にまかせっきりという感は否めない気がします。憲法24条1項には「婚姻は、~相互の協力により、維持されなければならない。」とありますので、婚姻の前段階たる結納においても同じことが言えると思うからです。

 と、くどくどと法律的に考えようとしてきましたが、人の気持ちが大事にされるべき事項に関していきなり法律でばっさりするのは適切な解決とは言えないようです。やはり人の気持ちを一番に考えた発想が必要不可欠です。
 婚姻は両性の合意のみに基づいて成立しますが、その前に、婚姻の合意に至るまでに様々な人たちから頂いた大切な物にしっかりと目を向けてみることが、今回のカップルの解決法かもしれませんね。

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