Ai(エーアイ)は目的か?手段か?【チームバチスタ3 アリアドネの弾丸】

蓮見 和章

 こんにちは、広島事務所の蓮見です。

 前回は、今クールの新作ドラマの話【新ドラマへの期待】をしましたが、一通りのドラマが数回の放送を終え、あらすじもだいぶ見えてきました。その中で、好調な滑り出しをしているのが「チームバチスタ3 アリアドネの弾丸」です。またドラマの話しかとお思いの方もいらっしゃると思いますが、ちょうど今日22時から第3回の放映がありますので今回はこのドラマで出てくるAi(死亡時画像診断)について語りたいと思います。

 このドラマ、今回は日本の死因究明制度の現状を危惧して厚生省の白鳥(仲村トオル)がAiセンターを立ち上げた矢先、Aiセンターの核となる新型MRIのシステムエンジニアが死亡するという殺人事件が発生したところから物語が始まります。今後は、田口(伊藤淳史)と白鳥がその犯人を究明していく過程で浮かび上がる現代の死因究明制度の問題点が描かれることになりそうです。

 ちなみに、初回で殺されてしまうシステムエンジニア友野を演じる矢柴俊博さん
      オフィシャルブログ     http://gree.jp/yashiba_toshihiro

は私が好きな俳優さんの一人です。私と同郷の埼玉出身で、ほのぼのとした表情が現在同グループで一緒に働いている掛幸太司法書士にどこか似ているので、もともと気になる俳優さんだったのですが、今回はAiの為にひたむきに自分の役割をこなす姿と温厚な態度、趣味に対するこだわりという人物設定まで本当に掛司法書士にそっくりで、私も思わずテレビに向かって「掛さん!」と声をかけてしまったほどです。既に亡くなってしまったので今後出てくることはほとんど無いと思いますが、田口と白鳥には個人的に好きだった友野の死因を是非とも究明して欲しいと思います。

 話しを戻すと、Aiとは、Autopsy imaging の頭文字で、遺体をCTやMRIなどで撮影し、その画像を解析することで、死因を究明する制度です。これまで人の死因は、体表等の診断による診断で判断されることが主でしたが、体表診断では体内がどのような状況になっているのか詳細に知るには限界があります。ドラマの白鳥の言葉によれば「死因不明の場合、医師はとりあえず死体検案書に死因を『心不全』と記載して片付けてしまう」という現実もあるようです。解剖をすればより詳細に死因を特定することができますが、解剖費用や解剖医の数、遺族の意向等関係で現状では死体解剖がなされることは数%だそうです。このような状況下でAiによる死因究明が全面的に導入されれば、死体にメスを入れることへの遺族の抵抗もなく、低コストで死体の死因が判明することになります。他方で、現在の技術ではまだ画像解析の正確性に問題があるとして、解剖を手がける法医学者を中心としてAiを絶対視することに反対する考えもあるようです。

 Aiを含む死因究明制度の動向に関しては、司法界も無縁ではありません。殺人事件等の刑事事件で被告人の行為と被害者の死亡の因果関係が争われるケースで、医学的な死因が何であるかが、裁判の結論に影響することもあるからです。実は私も以前ある死亡事件の刑事裁判の弁護人をした際に、被害者の死因に関する解剖結果に疑問を投げかけるため、Aiの研究をされている医師に証人尋問をお願いしたことがあります。その際私は、Aiの利点を感じることができた一方で、まだAiは医学界や司法関係者に十分認知されているものではないようにも感じました。その意味で今後このAiが医学界でどう扱われていくのか大変興味があるところでもあります。ただ、私は、医学の専門家ではないので、今回はAiの是否ではなく、あくまでドラマを見ての感想を書きたいと思います。

 ドラマでは、Aiが今後の死因究明を担っていくと信じるAi推進派とAi導入により既得権益が侵されることになるAi反対派に大きくわかれますが、Ai推進派の中でもAiは万能だと考える放射線科医島津(安田顕)とAiの抱える矛盾や問題を認識しながらAiの有効活用を探って行こうとする田口・白鳥との間では若干の温度差があるようです。

 世の中には、既に出来上がった固定概念を打ち破ろうとする者が現れたとき、周囲から強烈なバッシングを受けることがあります。いわゆる「出る杭は打たれる」というもので、前回の放送で島津がAiで死因判断を誤ったという事実をAi反対派の警察官僚斑鳩(高橋克典)がマスコミにリークしたことは正にこれにあたると思います。個人的にはたった一つのミスを揚げ足取り的に扱い、全てを否定するやり方は好きではありません。ただ、Ai万能派である島津も一つのミスをしてしまった以上、そのミスを棚にあげることはできないのではと感じます。既存の制度に代えて新たな制度を導入し、組織を作りあげようとするのであればこそ、たった一つのミスにも真摯に向き合い、それを改善できる形を模索するべきです。

 その点では、自らAiセンターを立ち上げながら「今はAiのいいところも悪いところも含めてデータが欲しい。本物のAiを作るためには失敗も必要」と語る白鳥や「死因の究明により報われる人がいる。(あくまで)その手段の一つとしてAiが役に立つかも知れない。」という田口の考え方に私は親近感を覚えます。もともとAi導入議論の本質は「死因究明制度の拡充」であってAiはその手段の一つにすぎないはずです。誤解を恐れず言えば、死因究明制度が拡充されるのであればそれはAiによるものでなくてもいいはずなのです。

 その意味では、島津がAiの欠点に向き合わず、やみくもにAiが絶対と語るのであれば、それは「死因究明制度の拡充」の為ではなく、自ら築き上げたAiを医療界に普及させることで自己のプライドを保とうというやや独善的な考え方だと思います。
 
 今回の斑鳩と島津のように、当事者の一つの物事に対する主張の裏に実はプライドや利権がからんでいたということは、弁護士業務の中でもよく直面することがありますし、それが悪いというつもりもありません。ただ、こういった事案では、当事者が感情的になりすぎて物事の本質を見間違えてしまう(あるいは故意的に物事の本質を隠してしまう)ため、なかなか複雑な案件になり、解決に至るのも一筋縄では行かないことがあります。まあそこがドラマの面白いところなんですけどね。
 
 さて、今日の第三回は、掛司法書士似のエンジニア友野の死亡推定時刻が実は間違っていたという内容のようです。友野を殺した犯人は誰なのか、そしてAiは現代の死因究明制度を変えることができるのか。今後の展開を楽しみにしたいと思います。

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