8月の甲子園~猛暑の中の高校野球~
こんにちは、弁護士法人リーガルジャパン代表弁護士の蓮見です。
久々のブログ更新になりますが、これからは週に1回のペースで弁護士法人リーガルジャパン所属の弁護士が、これまで同様に最近話題のニュースに関する法律問題の解説や弁護士ならではの視点でのブログを掲載していく予定です。以前よりも地元広島の話題にも触れていきたいと思っておりますので、是非定期的に読んでいただければ幸いです。
さて、昨日から8月に入りましたね。今年はとにかく暑い日が続いているので、やっと8月かという感じもしますが、みなさん8月のイベントといえば何を思い出しますか?海や花火大会を思い浮かべる人もいらっしゃるかもしれませんが、スポーツ好きの私としては、8月と言えばやはり甲子園ですね。地方予選を勝ち抜いた県代表が、しのぎを削る夏の甲子園。それぞれの都道府県を代表したこの夏無敗の高校同士の対戦。まさに負けたら即解雇の「GMT49」。春選抜とはまた違った独特の面白さがあるのが夏の甲子園の特徴です。
私は、子どものころから、夏休みになるとテレビの前で、また時には球場に足を運んで高校野球を観てきました。特に私の実家の近くには今春の選抜で優勝した浦和学院高校がありましたので、地元の友人も野球熱が高く、甲子園で活躍した選手を目当てに練習を観に行ったりしたこともあったほどの「高校野球少年」でした。社会人になってからなかなか観戦する時間もなかったのですが、先日たまたまテレビ観戦した広島県大会の決勝には久々にしびれました。瀬戸内高校と広島新庄高校の対戦はいままで私が見てきた高校野球の試合の中でも数本の指に入る好勝負でした。
広島新庄高校の「西の松井」と呼ばれるプロ注目左腕田口投手と、崇徳高校や広陵高校の強力打線を抑えてきた本格的右腕山岡投手の投げ合いは球史に残るものでした。山岡投手は9回まで無安打ピッチングで結局15回を投げ1安打。対照的に田口投手はヒットを打たれ再三ランナーを背負うものの要所を抑えるピッチングでしたね。この好投手に加え、両チームとも守備がよく鍛えられていたので、非常にレベルの高い試合でした。特に延長13回裏には瀬戸内が無死満塁というチャンスをつかみましたが、そこからの広島新庄のピンチを切り抜けた守備は圧巻でした。
結局0-0で15回引き分け再試合になり、翌々日の再試合で8回に瀬戸内高校があげた1点が決勝点となって1-0で瀬戸内高校が優勝しましたが、計24回やって両チーム合わせて得点はこの1点という非常に引き締まった名勝負でした。山岡投手と瀬戸内高校の全国での戦いも非常に楽しみなところです。
さて、そんな高校野球ですが、今年は例年に増す猛暑となったことから熱中症で倒れる選手たちのニュースが話題になりましたね。そんな選手たちに監督や県高野連の理事が「何をやっているのか」「毎日これでは困る」と発言したことがさらに波紋を広げました。なかには「猛暑の炎天下のなか試合をさせるのは体罰にあたるのではないか」という声も上がっています。
学校教育法11条では「校長及び教員は、教育上必要があると認めるときは、文部科学大臣の定めるところにより、学生、生徒及び児童に懲戒を加えることができる。ただし、体罰を加えることはできない」として生徒に対する体罰を禁止しています。
では体罰とは具体的にどのような行為をいうのでしょうか。「体罰」とは「肉体的苦痛を与えるような懲戒」であり「懲戒」とは「特別の監督関係ないし身分関係にあるものに対して一定の義務違反を理由として科する制裁」といいます。文部科学省としては、生徒に対する指導(制裁)の中で行き過ぎたものを「体罰」と定義しているようですので、単純に甲子園を目指す試合をさせているのであれば「体罰」には当たらないようにも思えます。
しかし、高校野球は生徒指導の一環ととらえれば、生徒の心身を鍛えるという指導の名目で「体罰」を行ったと考えることもできなくはありません。文部科学省は体罰が行われたか否かは当該行為が行われた場所的及び時間的環境、懲戒の対応等の諸条件を総合的に考え個々の事案ごとに判断する必要があるとしていますが、昨今の記録的な猛暑と2時間前後という試合時間、勝ち進んだチームは連戦になり体力を消耗していることを考えれば、熱中症で倒れる生徒がいるのに何らの対策も講じず、心身を鍛えるための指導の一環として猛暑の中での試合を行うのであれば、「体罰」とされる可能性もあるかと思っています。
もっとも「体罰」とされなくても、熱中症の可能性を認識しながら何らの対策も行わず、実際に熱中症で倒れる生徒が出たと評価できる場合には、高野連ないしチームの監督等は民事上の監督責任(損害賠償責任)を問われる可能性も十分あると思います。
「昔も今と変わらないスケジュールでやっていた。今の生徒は軟弱になっているに過ぎない。」そういった声も聞かれますが、最近の猛暑は明らかに以前と質が違います。今年の甲子園では初めて予備日を設けたり、試合開始時間を早めたり、高野連もできる限りの対策を立てておりますが、今後は開催時期の変更も含めた改革に関する議論をすることも必要とされるように思います。夏の甲子園の一番の魅力は何より前向きでひたむきな選手のプレーです。その選手が猛暑の中でいやいやながら、あるいは熱中症を恐れながらプレーしていたのでは、その魅力も半減します。
「8月と言えば甲子園」、高校野球ファンとしてはそう言えなくなるのは寂しいですし、選手も暑い夏に戦ってこその甲子園と思っているかもしれません。ただ、今後猛暑が継続していく中で、犠牲者が出てしまってからではあまりに遅きに失します。一度選手の体調を守るという視点から「8月の甲子園」のままでいいのか議論してもよいと思います。
何はともあれ、今年も夏の甲子園がはじまります。選手にはくれぐれも体調管理に留意していただき、新たな感動を生み出してほしいですね。