野球人として大切なもの~イチロー選手電撃移籍

蓮見 和章

 こんにちは、広島事務所の蓮見です。

 さて、少し前の話になりますが、イチロー選手が電撃移籍しましたね。発表当日にはヤンキースの一員として試合に出場したわけですから、本当に電撃です。

メジャーでは、移籍というのはよくあることだとしても、移籍発表の数時間後には対戦相手のベンチにいるわけですから戦う方はやりづらいと思います。サッカーの世界では、直近で移籍チーム間同士での試合がある場合は、その試合に移籍選手は出場できないという合意をしたりするのですが、今回は特にそのようなことも無かったようですね。

 しかし、プロの世界、しかもメジャーのチーム同士の対戦ですから、マリナーズもヤンキース戦に向けていろいろ対策は練っていたはずです。例えば事前に選手を交えてミーティングを行っていたり、相手先発投手の弱点をまとめたレポートなどが選手に配られていたりした場合、そのような情報をもった選手が相手方にいってしまうのはまずいのではないかと漠然と考えてしまいました。さらに、イチロー選手が移籍することによって、マリナーズは前日までのサイン等を一新しなければならないと思います。新しいサインが全選手にしっかり浸透すればよいですが、一部の選手が直前に変えたサインを十分に理解できないと、真剣勝負を行う上では相当の不利益を被ることになります。
契約を締結する際に日本よりも細かい条項をいれておくことが多いといわれるアメリカのことですので、そのような不利益も織り込み済みで移籍金等の条件を設定していたということでしたら、「さすが!」だと思います。ただ、それでもなおこのフェアではない状況下で試合をするということにファンの立場から不満はでないのかという疑問がわきます。まあ、アメリカでは、試合中に対戦チーム間でトレードが成立したこともあるやに聞いていますので、そこはビジネスライクに割り切れるということかもしれません。またシアトルのファンは、ヤンキースの選手としてセーフィコフィールドに立ったイチロー選手をスタンディングオベーションで迎えたそうですので、イチロー選手は別格といった側面もあるのかもしれませんね。

 ところで今回の移籍、イチロー選手は「若い選手が多いマリナーズにおいて、自分がいることは弊害になる。来シーズンに向けてこの決断をした」と、自らチームを去ることを申し出たそうです。イチロー選手なりの美学だと思うのですが、何故シーズンオフではなく、今なのでしょうか。そして、当の若手選手はどう感じているのでしょうか。

 本来、強豪チ-ムは、どんなに若手中心のチームでもベテラン選手がいることでチームが落ち着き、大事な場面でも勝負強さを発揮できたりするものです。若手中心であるからこそ、イチロー選手のようなベテランが必要であるということは、WBC日本代表の活躍を見ても明らかだと思います。また、メージャーリーグクラスになれば、イチロー選手がいるから若手が育たないという議論は成り立たないと思います。イチロー選手から実力でポジションを奪える、少なくとも奪おうとする気概もない若手にいくらチャンスを与えても意味はないと思います。あれだけの功績を納めたイチロー選手の野球に対する姿勢等は、どんなに将来有望で実力のある若手でも学ぶべき点が多くあるはずです。その意味で、マリナーズの若手選手にとって、イチロー選手の離脱には非常に大きなマイナス要素があるのは間違いないと思います。

 私はイチロー選手が何故自分の存在が現在のチームにおいて弊害になると考えたのかはもちろんわかりませんし、チーム内で人間関係がどのようなものであったかもわかりません。ただ、以前、イチロー選手が原因でチーム内に不協和音があるという記事を目にしたことがあります。
イチロー選手は、気むずかしい性格が話題になることもありましたが、WBCで監督を務めた王監督や、広島の前田外野手、元ヤンキースのバーニーウイリアムス選手等、野球界の先人達に対しては真摯に尊敬し、敬意を表してきました(今回のヤンキース移籍に関して背番号51番を固辞したのもウイリアムスの番号は簡単にはつけられないという気持ちからであると自ら述べています。)。数字上、自分の方が遙かに凌駕した成績を残していても、先人達への畏敬の念を示し続けるイチロー選手、川崎宗則選手ら後に続く日本選手にイチローファンが多いのもそのような野球人としての姿勢があるからではないでしょうか。イチロー選手は、そのような若手とは合同トレーニングをしたり、交流を深めることで自分の持っているものを伝えようとしていました。尊敬から生まれる向上心や先人達から学べる多くのこと、そのようなものを野球人として大切にしてほしい。それがイチロー選手が若手に感じている事なのではないでしょうか。

 そんなイチロー選手が発した、「自分(のようなベテラン)は若手のチームに必要ない」という発言。もし、イチロー選手の発言の真意が、「自分が抜けることで、若手選手にベテラン選手の抜けた穴の大きさを認識してもらうことが、このチームに必要だ」というところにあるのだとしたら、この時期にマリナーズを退団することは、非常に大きな意味があると思います。意識改革が早期にできれば、チームは飛躍的に強くなるかもしれませんからね。これまで前人未踏の多くのことを成し遂げてきたイチロー、彼の野球人としての生き方もまた前人未踏の領域にあるのかもしれません。

 来年以降の若手主体のマリナーズ、どう変わるのか一番楽しみにしているのはイチロー選手かもしれませんね。

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