真剣勝負の価値~2011年プロ野球開幕!

蓮見 和章

広島事務所所長の蓮見です。

いよいよ本日、2011年のプロ野球が開幕します。皆さんご存じのとおり開幕日を巡って世間を騒がせたプロ野球ですが、開幕するからには本業の試合内容でファンを騒がせてほしいところですね。

 さて、プロ野球の球場は、一昔前はどこも同じようなつくりで各球場の独自性はあまりありませんでしたが、最近は大リーグの球場のように、内野席がせり出していたり、砂かぶり席があったりするなど、臨場感を出すように工夫を凝らした球場が多くなりました。ただ、臨場感を増すようにファンスを低くしたり、ネットを設置しなかったりするとその分ファールボールが飛んでくる危険性も増しますよね。

 私も内野席のせり出している部分で試合を見たことがありますが、手を伸ばせば選手に触れられるのではないかと思うくらいの臨場感に興奮した一方、ファールボールが近くに飛んでくるたびに「はっ」と緊張する思いをしました。プロ野球を観戦する際に安全性を重視するのかそれとも臨場感を重視するのか、なかなか難しい問題です。

 最近、ある地方裁判所でこの点が争われた裁判があったので今日はこの話をしたいと思います。

 事案は、「Aさんが球場の内野席でプロ野球の試合を観戦中、ビール販売の売り子を呼んでビールを購入し、座席の前に装着されたコップフォルダーにビールを置いて顔を上げた瞬間、ファールボールが顔面を直撃し、眼球破裂の損傷を負った。」というものです。Aさんは、ファールボールでケガをしたのは、球場の安全性に不備があったためだとして、球場を管理する球団と県を相手に損害賠償請求を求めて提訴したのです。

 裁判では、主に球団や県がしっかり球場の安全対策をしていたと言えるか、より端的に言えば、球場に設置されているフェンスやネットは、観客の安全性を確保していたといえるかが争点になりました。

 Aさん側は、「プロ野球の観客の全員が臨場感を求めて観戦に来ているのではないでしょ。少なくともフェンスやネットを設置するときは、そういう人の安全性も考えなきゃ。ファールボールはどこにどんな球筋で飛んでくるのか分からないのだから、それを計算して設置されていない現状のフェンスやネットでは観客の安全性は確保されていないよ。」と主張しました。

 これに対して裁判所は、「最近のプロ野球では臨場感のある球場が好評なのだから、試合の観戦に際しての臨場感はプロ野球観戦の本質的要素の1つといえるよね。だったら安全性を厳格に求めるわけにはいかないよ。少なくとも現状のフェンスやネットはプロ野球の球場として通常の安全性を確保しているから問題ないでしょ。観客もビールをどのタイミングで買うかは自由なんだから、買うときは自分で注意しなきゃ。」と安全性より臨場感を重視してAさんの訴えを退けました。

 ビールをどのタイミングで買うかは自由とはいっても、球場の売り子ってなかなかほしいタイミングで来てくれないものですし、Aさんにはやや酷な判決とも感じますが、臨場感あるプロの真剣勝負を楽しみにきているのだから、観客も真剣勝負で観戦しなさいということなのです。

 ちなみにこの判決は、事故の起こった試合がプロ野球の試合であったことをかなり重視しています。もし、高校野球の試合での事故だったら結論が変わっていたかも知れないのです。逆説的に読めば、この判決は、プロ野球選手は危険を冒しても観戦する価値のある真剣勝負をしていることを前提としていることになります。人を惹きつける力がプロ野球にはあるということですよね。

 さあ、ペナントレースが始まります。プロ野球の選手の皆さんには、開幕を心待ちにしていたファンに夢、希望、そして勇気を与える真剣勝負を披露してほしいと思います。野球を極めた者の真剣勝負にはそれだけの価値があると裁判所も認めているわけですから。

 「がんばろう!日本」

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