父親になるための「おきて」~「マルモのおきて」の親権者は誰なのか。

蓮見 和章

 こんにちは、広島事務所の蓮見です。

 皆さんは毎週日曜日午後9時から放送中の「マルモのおきて」というドラマをご存知でしょうか。

 男手一つで育てられてた6歳の双子の姉弟が、その父を病気で亡くし、父の親友のマルモに引き取られ生活していく様子を描いた作品で、最初は見ず知らずの他人だった3人と犬のムックが毎回共同生活の「おきて」を定めながら絆を深めていくストーリーです。双子役の芦田愛菜ちゃん、鈴木福ちゃんが歌う主題歌がヒットしたり、父親マルモ役阿部サダヲさんのほのぼのとした演技が人気を博し、視聴率も回を重ねるごとに上がってきているみたいです。 

 私は、もともとドラマを見るのが好きで、毎クールいくつかのドラマを録画して時間をあるときに見ているのですが、このドラマは癒し系な好演技に魅せられる一方、親を無くし行き場をなくした子どもというシリアスなテーマを描いているので、今クールのドラマの中では一番注目して見ています。(実際、私は、録画したドラマを2倍速で見るのが日課なのですが、このドラマだけは通常の速度でじっくり見ています。)

 さて、ドラマの中で毎回子どもとの絆を深めていっているマルモですが、次週の放送では鶴田真由さん演じる子ども達の実母が再登場するようですし、最終回に向けて今後どのような展開になっていくのか気になるところです。

 そして今後のドラマの展開は法的に興味がある問題にも直面します。ドラマの中の双子が今後成人するまでの間、法的に親権等の権利を有するのは誰かという問題です。

 双子の二人も今後物を買ったり旅行に出かけたりするために契約を締結しなければならない時があるかと思いますが、基本的に親権者の同意がなければ、結ばれた契約は完全に有効となりません。また、親権者は、子どもの居所を指定することができ、財産の管理や監護をする権利を有することが法律上認められています。このように、子どもの親権者が誰になるのかはとても重要な問題で、マルモが子ども達とずっと一緒に暮らしていくためには、何としても親権やこれに類する権利を得なければなりません。

 今回は、マルモから「子ども達とずっと一緒に暮らしたい」という相談を受けたと仮定して、それに答える形で親権の話しをしたいと思います。

 まず、民法818条では、「成人に達しない子は、父母の親権に服する。」と記載されています。つまり親権を有するためには、子の父親か母親でなければなりません。したがって、残念ながらマルモは現状では親権を得ることはできません。(どうしても親権を得たいのであれば養子縁組をするほかありません。)

 では、現在誰が子ども達の親権者なのか。この点、民法では、基本的には夫婦が共同で親権を有するものの、夫婦が離婚した際はどちらかが単独親権者になると定められています。ドラマのあらすじによれば、二人が3歳の時に、母親が育児ノイローゼになり両親が離婚、以後は父親が一人で養育していたようなので、おそらく父親が単独親権者になっていたのだと思います。つまり、子ども達の親権を有していたのは父親のみだったということです。

 しかし、その父親も既に亡くなってしまっています。そうすると、親権者は一人もいなくなってしまうのか、一度親権を譲ったものの生存している実母に親権が復活するのか、ここが今回の大きなポイントになります。

 母親の親権は復活しないと考えると、親権となるものがこの世に存在しないということになりますから、法律上未成年者後見が開始され、未成年後見人という親権者とほぼ同じ権限を持つ人間が親代わりに選ばれることになります。この未成年後見の選任は通常は親族がなりますが、現在子ども達と一緒に暮らしているマルモが選ばれる可能性も大いにあり、子ども達とマルモが今後も一緒に暮す可能性もひろがります(未成年後見者に選任されれば、家庭裁判所の許可を得て子ども達と養子縁組を結ぶことも可能で、その場合晴れてマルモは親権者になります。)

 他方、母親の親権が復活すると考れば、親権者になった鶴田真由さんが「私が子どもを養育する。」と決断すれば、マルモは原則何もできません。子ども達と養子縁組するにも親権を有している母親の承諾を得なければなりませんので、鶴田真由さんが養子縁組について首を縦に振らない以上マルモが子ども達を暮らすのは難しくなるのです。

 この問題、実際法律家の間でも考え方の対立がありいくつかの学説が議論されています。法律家ですら意見の一致を見ないのですから、当然当事者間で争いになることも多く、裁判例も多くあります。

 現在の裁判実務は、何もしないで実親に親権が当然に復活する訳ではないが、実親が親権の変更を申し立てれば原則として親権は回復させてあげようという考え方をとっているようです。ただ、実親であるからといって直ちに親権者の立場を与えるわけではなく、現在の生活状況等を鑑みて、子の福祉の観点から誰が養育するのに相応しいかという点も慎重に判断して結論を出しているようです。 

 ドラマを見る限り、マルモと子ども達の家族愛は実際の家族よりも強いのではないかと感じるくらい強固ですが、実母の鶴田真由さんも一度子ども達を捨てたとはいえ、子どもへの愛情は相当程度あり、子ども達がなついている部分もうかがわれます。実際裁判となったらどう判断するかは非常に難しく、裁判所の出す結論が非常に興味のあるところでもあります。

 『マルモと双子ちゃんとムックはずっと一緒に暮らしていけるのか。』今後の展開が法的にも注目されるこのドラマ、どんな結末がまっているのか最終回を楽しみにしたいと思います。

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