大相撲の意外な被害者?

下宮 憲二

 はじめまして、アクティブイノベーション広島事務所の下宮憲二です。
 
 僭越ながら、ブログに投稿させて頂きます。

 先日も、このブログで取り上げられましたが、大相撲の八百長問題が連日紙面を賑わしています。今までの、力士等による暴行事件や野球賭博の問題と違い、大相撲の根幹に関わる重大問題として、春場所の開催が中止にまで追い込まれました。航空機事故などでは、大きな事故の前には、その前兆となる無数の小さな事故があると言われますが、組織の不祥事においても同じことが言えるような気がします。

 八百長問題は、野球賭博の捜査過程において調査した力士等の携帯電話のメール内容から発覚したようです。ここで私が疑問に思ったのは、この野球賭博の捜査の過程において入手した八百長行為の情報を、捜査機関が外部に流すことに問題はないのか、ということです。

 確かに、捜査上知り得た情報を捜査の必要から外部に流すことは、相当な範囲内で許されると思います。例えば、犯人確保のために、被害者宅の防犯カメラに映った犯人らしき者の画像や特徴を公表することがこれにあたると思います。これは、犯人確保の必要があり、犯人特定に必要な範囲内の情報ということで相当なものであることから許されることになるでしょう。

 しかし、例えば、ある会社で業務上横領罪に関する事件で捜査が進んでいるとします。この事件の捜査中に社内メールを解析中、会社の男性部長と女性従業員との不倫関係を疑わすような内容のメールが発見されたとします。捜査機関が、業務上横領罪に関する捜査の必要性もないにも関わらず、このメールの内容をむやみに公表し、会社内等での男性部長らの名誉が棄損された場合には、捜査の必要性も相当性も認められず、捜査機関の行為は違法なものとなるおそれが大きいと思います。場合によっては、部長らは、捜査機関に対して国家賠償請求を行っていくことになると思います。

 不倫行為は、婚姻関係を破綻させるような不適切な行為ではありますが、刑事上罰せられる行為ではありません。大相撲の八百長行為も不適切な行為かもしれませんが、明確に刑事上罰せられる行為とは言い切れません。
 とすると、野球賭博事件の捜査の過程において、八百長行為を窺わせるメール内容を公表することに、はたして捜査の必要と相当性があったのか、少し考えてみることも必要ではないでしょうか。
 もしも、野球だけにとどまらす、相撲の取組が賭博の対象となっている可能性を前提として捜査が行われているとしたら、またまた大きな問題へ発展していきそうです。

 メール内容の公表が、角界の“うみ”を出し切るきっかけになるのかもしれませんが、適正手続の観点から注目してみると被害者は意外なところにいるのかもしれませんね。

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