別れと旅立ちに関する2つの言動~最近のニュースから~

蓮見 和章

こんにちは代表弁護士の蓮見です。
さて、春分もすぎて、いくぶん暖かくなってきましたね。3月も終わりに近づき、いよいよ桜の開花の話題も取り上げられるようになりました。出会いと別れの季節ですね。

別れといえば、先日私の好きな俳優の一人だった宇津井健さんがお亡くなりました。もちろん残念な話なのですが、びっくりしたのはなんと亡くなった日に再婚していたというところでした。

報道によれば、再婚相手は宇津井さんの闘病生活を支えていた人だそうで、亡くなる2週間前に宇津井さんから「葬儀の喪主になってほしい」とプロポーズしたそうです。

ちなみに、喪主という言葉は宗教上の言葉で、一般的に祭祀を承継する者が喪主を務めるのが慣習とされているようです。ただ、民法では、この祭祀を承継する者については遺産相続とは完全に別個のものと規定し、故人の希望で、相続人以外の人物からも自由に指名することもできるとしています。
何が言いたいかというと、法的には宇津井さんはわざわざ再婚しなくてもその女性に祭祀を承継させ、喪主となってもらうことができたのです。

ただ、おそらくそんなことは宇津井さんも分かっていた上でのプロポーズでしょう。今回のケースでは特に相続トラブルも無いようですので、やはり宇津井さんは純粋に一人の男として亡くなる前にその女性と夫婦になりたかったのではないでしょうか。
結婚はゴールではなくスタートと一般的によく言われるように、通常結婚は好きな人とこれからの人生とともに歩むためにするものであると考えられていると思います。しかし、宇津井さんは、実際にはほとんど夫婦として歩んでいく時間はないとわかっていたにも関わらす夫婦となることを強く望んだ・・・。

「自分が逝く瞬間を女房として添い遂げてほしい。」

宇津井さんは一人の男として最期そんな思いだったのではないでしょうか。そう考えると、宇津井さんは奥様に添い遂げられながら思い残すことなく天国へ旅立つことができたのではないかなと思います。

「結婚」って奥が深いですね。

話はガラッとかわりますが、結婚そして別れ、といえば、先日、広島で活躍されているフリーアナウンサーの末田景子さんが、ご結婚に伴いアナウンサーを引退することになったことを、出演しているRCCテレビの「イマなま3チャンネル」で報告されましたね。本当におめでとうございます。

私は、末田さんとは5年前に広島で「イマなま3チャンネル」の前身番組の法律相談コーナーに出演させていただいた時からお付き合いさせていただいています。
素人の私からすると、末田さんは、きれいで滑舌のいい声と、いつも元気で明るく少しおっちょこちょいな「広島のサザエさん!」的なキャラがとても魅力的な、大好きなアナウンサーの一人です。

一方、一緒にお仕事させていただいた際の弁護士の立場からすると、末田さんほど「難しい法律を視聴者にいかにわかりやすく伝えるか」「敷居が高いと言われる弁護士を身近に感じてもらえるか」というテーマに対してストイックなプロ意識を持ちその姿勢を継続して貫ける方はなかなかいないと思っております。

人は、どんなこともでも物事に慣れてくるとそれが当たり前になります。自転車に乗れない幼稚園児や九九が理解できない小学生、基本的な英語の文法に苦戦する中学生。初恋時のなんとも言えない苦しさ。
まあ、最後のは冗談としてもどれも皆一度は経験して苦しい思いを味わったはずです。それが、一度経験して乗り越えてしまうと、乗り越えたことが当たり前になってしまい苦しんだことはいつのまにか忘れてしまいます。それは人間が成長していくために必要とされる脳の機能でもあると思います。
何年も収録を重ね、末田さんにも法律用語に対する「慣れ」はあったと思います。

それでも、そのような「慣れ」をしっかり自覚した上で、「常に初めて法律に触れる人の目線を大事にする」という姿勢を貫く末田さんに、私自身学ぶものが大きかったですし、日々の法律相談業務でも自分は「慣れ」に甘えて説明がおろそかになっていないか意識するきっかけになりました。これは頭では分かっていてもなかなか実践することは難しいことだと思います。
しかも、末田さんがすごいのは、そのような意識を持ちつつも、真面目になりすぎず、自分自身好奇心をもって楽しみながら収録に応じてくれ、相談しやすい和やかな雰囲気を作ってくれるバランスの良さです。強い意識をもちながらも、堅くなりすぎずに純粋に興味津々にその場を楽しむことでお茶の間の方にも楽しく法律に触れてもらう。そのような末田さんのバランス感覚は、どうしても理屈がちな私にとっては憧れでしたし、勉強になりました。

その意味で、弁護士の立場としても、プロ意識の高い末田さんの引退は本当に残念ですが、以前のブログ「引き際の決断」でも触れましたが、「引き際」を選択できるのはごく一部の限られた人に与えられたご褒美だと私は考えています。これまで一生懸命仕事に打ち込み、「引き際」を決断できるまでの立場になられた末田さん自身が出した決断には、末田さんなりの人生に対する価値観や美学のようなものを感じます。

「広島のサザエさん!」(勝手に命名してすいません)は卒業されるようですが、これからは「(家庭に)明るい笑いを振りまいて♪お料理片手にお洗濯♪」な末田さんとして是非幸せになってほしいと思います。

さて、末田さんは放送中の本当に最後のコメントで、自分のアナウンス人生における思い出や視聴者に対するコメントではなく、これまで一緒に番組を制作してきた裏方スタッフさんはじめ、番組に関わる人達へ感謝の言葉を述べていました。そのような発言をしたのは、言葉にできないいろんな想いからだと思いますが、

「私のアナウンサー人生の最期の瞬間を一緒に添い遂げてくれてありがとう。」

という想いも一部あったのではないかと私は感じました。そして、もしそうだとすれば、末田さん自身、「いいメンバーと最期に最高の仕事ができて、思い残すことなく次の人生に旅立てる。」心からそう思っていらっしゃるのではないでしょうか。

「仕事」って奥が深いですね。

 二つの別れと旅立ちのニュースに触れて、自分だったらどのような振る舞いをしたかなあと考えてみました。そして考えれば考える程、自分はまだまだ人として未熟だなあと感じた一週間でした。

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