人の「心」「思い」

蓮見 和章

 広島事務所の蓮見です。

 先日の東日本大震災。本当に多くの尊い命が奪われ、また多くの建物が倒壊しました。この場を借りて亡くなられた方のご冥福をお祈りするとともに、未曾有の大災害からの一日も早い復興を願います。原発の問題からくる計画停電や野菜の出荷制限等の二次的な被害も出てきております。義援金や節電はもちろんですが、各自が自分にできることは何かを真剣に考え、これを実行していくことが大事になってくるかと思います。

 もちろん、私個人としても、幸いにも生かされている立場として今自分に何ができるかを日々考えています。様々な震災復興に向けた活動に心を打たれますが、特に、生命保険協会が保険金支払いに関して地震免責の条項を適用しないと発表したり、欧州のサッカークラブが慈善試合に日本の選手を派遣することに快諾するなど、災害を前にして法的な規定に囚われない人の善意に触れ、弁護士という職業のあり方について改めて考えさせられています。

 法律や契約はありとあらゆる事態を想定して制定、締結されます。保険契約では地震の際には多くの方が被災される結果、保険会社が経済的困窮に陥ることをふまえて保険金の支払いが減免されるという免責特約を結んでいますし、サッカー界でも選手に給料を払って契約を結んでいるクラブは、選手がケガをしてしまったり、移動で疲労がたまってしまうのを防ぐために慈善試合では選手を送り出すことを拒否してもいい仕組みになっています。

 日常であれば、保険会社も欧州のクラブも、契約や法律をたてに頑固な姿勢を取っていたと思います。「それがルールだ。」と。しかし、未曾有の災害のような「非常事態」では、人間としての良心や思いやりが、「ルール」までも変えてしまうものなのです。(もちろん、「非常事態」の無秩序を利用した違法・脱法行為等の悪い意味で「ルール」を無視した行為がなされることもありますが、今回の震災ではこのようなことが少ないことが世界から称賛されています。)その意味では、法治国家と言われる現代社会においても、人の「心」であり「思い」は非常に大切なものだといえると思います。

 日々の弁護士業務の中ではどうしても「これは法的に難しいですね。」と言わざるを得ないことがあります。でも、そんなときでも相談者の「心」「思い」を実現させるために人間として「何かできないか。」と考え、可能な限り行動してみる。結果として無力のこともありますが、これは同じ「心」「思い」をもった人間にしかできないことです。弁護士という職業の存在意義もここにあるのではないか、当たり前のことですが、今回の災害で改めてこのことを考えるようになりました。

 冒頭の話に戻りますが、今回の災害に関して今の自分に何が出来るかと言えば、目の前の相談者にしっかり人として向き合い、共に悩み考えることだと思います。法律事務所に相談に来られる方は、まさに「非常事態」の状況で悩まれている訳ですから。

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