“デキる最高裁”(遺言と代襲相続に関する事件)

下宮 憲二

 こんにちは、“デキる弁護士”が目標の下宮です。

 よくある法律相談と言えば、相続、離婚、債務整理です。離婚は、夫婦円満であれば関係ないでしょうし、そもそも結婚しないという選択肢もあります。債務整理は、適切な生活設計で回避可能です。
 しかし、相続は、誰もが決して回避できない問題です。その中で、家族間の紛争を防止すべく遺言書を作成される方が多くいます。ちなみに、私は、遺言を「いごん」と呼びます。理由は、ちょっとかっこいいからです。
 話がそれましたが、私も、つい先日、依頼を受けて遺言書の作成に関わりました。そんな中、遺言と代襲相続の関係について最高裁の初判断が出ました。そこで、今回のお題も、最高裁判例シリーズです。

【事案】
 妻に先立たれたAさんには長男と長女がいました。Aさんは、子が3人いる長男に、全財産を相続させるという内容の遺言をしました。しかし、Aさんが亡くなる前に長男が亡くなり、その後、Aさんも遺言書を書き直す暇もなく亡くなってしまいました。
 そこで、Aさんの財産は、誰が相続するのか。遺言の効力が問題となりました。
【考え方】
1 遺言有効
 Aさんは、遺言作成時に、長男に全財産相続させる意思で長女には相続させる意思がなかったのだから、長男の子が相続すべきだ、と考えるならば、遺言を有効として、長男の3人の子がAさんの全財産を代襲相続(相続人が死亡している場合にその子らが相続人に代わって相続すること)することになります。
2 遺言無効
 Aさんは、あくまで長男自身が相続することを前提に遺言書を書いたのであり、長男自身が相続できないなら長女に財産を相続させる意思だったかもしれない、と考えるならば、遺言を無効として、法定相続により長女がAさんの財産の半分、残りの半分を長男の子3人が代襲相続することになります。
【結論】
 最高裁が下した判断は、2の遺言無効でした。その理由は、私の理解からすると、今回の遺言は長男が生きているのを前提にした遺言でしょ、遺言書作成時に、長男がAさんより先に亡くなることをAさんが知っていたら、Aさんは別の判断をしたかもしれないでしょ、遺言書作成後に、長男の死亡という事態が発生したのだから、そのことを踏まえたAさんの意思じゃないとだめでしょ、というものだと思います。

 遺言作成時、Aさんに、長男に全財産を与えるという意思があった以上、長男が死亡すれば長男の子供に財産が引き継がれることになるのだから、Aさんの意思としては、長男が死亡したらその子供に相続させる意思であり、その思いは死亡時も変わらないはずで、遺言は有効だと考えることもできるでしょう。
 しかし、みなさんも経験されているとおり、人の気持ちはちょっとしたことがきっかけで大きく変化することがあります。今は田舎の事務所に勤務しているが、いつか都会に出て一旗あげてやろうとやる気満々で準備していても、田舎で彼女が出来たりすれば、田舎で骨を埋めてもいいかなぁと思うことは多々あることです。
 遺言についても、同じことが言えるのではないでしょうか。遺言は、一度作成しても、後にいつでも遺言の方式に従って撤回することが出来ますし(民法1022条)、後に矛盾する内容の遺言をした場合には、前の遺言を撤回されたものとみなされます(民法1023条1項)。これは、遺言する人の最終的な意思を最大限尊重しようとする趣旨です。
 今回の判決でも、Aさんが、長男がAさんより先に亡くなったとしても、長男の子供らに相続させる意思を有していたとみるべき特段の事情があれば、また別の判断となることを示唆しています。Aさんが長男と共同で事業をおこなっていたり、何があろうと長女の家系には絶対に自分の財産は渡さないと日頃から言っていた等の事情があればまた違う判断がなされたでしょう。

 今回の判断において、最高裁は、遺言者の亡くなる直前までの本当の気持ちを大事にしようとしたのではないでしょうか。こんな最高裁は、私の目標からすれば、“デキる最高裁”と言ってもいいのではないでしょうか。

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