「ヘイエモン」は、想定の範囲内?(ライブドア粉飾決算事件)

下宮 憲二

こんにちは、広島事務所の下宮憲二です。

 ホリエモンこと堀江貴文元社長の懲役2年6月の実刑(刑務所に実際に入ることになること)が確定しました。ライブドアの社長としてテレビ番組にも多く出演し、「想定の範囲内」という言葉を流行らせ、選挙にまで立候補し、時代の寵児とまで言われた方が、これから刑務所の中で2年6月も過ごすのかと思うと、禍福は糾える縄の如しだなぁと思ってしまいます。そういえば、M上ファンドの方は、どうしているんでしょうか。

 前回のブログでも触れた、エースマエケンこと前田元検事もそうでしたが、前科前歴もなくこれまで社会で一定の地位を有していた人が、執行猶予(前科はつきますが、一定期間犯罪行為と無縁な生活をしていれば刑務所に入らなくていい制度)ではなくいきなり実刑を受けることになる事態に、事件の社会的影響力の大きさを改めて認識させられます。

 犯罪事実が立証されると刑が言い渡されます。言い渡された刑が3年以下の懲役等であれば、裁判所は執行猶予を付す事が出来ます。今回も執行猶予は十分可能でした。
 どのような刑罰を科すのか、執行猶予を付すかどうかは、法律の範囲内で裁判所が決めますが、公平性の観点からある程度の相場があります。その判断には、犯行の動機、計画性、犯行の態様、被害の大きさ、社会的影響力、犯行後の状況等様々な要素が考慮されます。
 事案にもよりますが、例えば、窃盗事件などで起訴された場合、有罪ならば必ず刑務所に行くというのではなく、被害が弁償され、被害者も罪を許している、被告人も謝罪し反省しているような場合、執行猶予となる可能性は高くなります。
 今回は、どのような点が重視されて実刑となったのでしょうか。最高裁は、「上告理由に当たらない」と軽くスルーしていますが、東京地裁の量刑理由をまとめると以下のようになります。

(不利な事情)
 本件各犯行は、情報開示制度の根幹を揺るがすもの,証券市場の公正性を害する極めて悪質なもので、被告人が中心的な役割を果たした。犯行の結果は大きく、一般投資者を欺き,その犠牲の上に立って,企業利益のみを追求したもので、虚偽の業績を公表して多数の投資者を欺いた悪質な犯行。
 被告人が,新興企業,IT関連業界を代表する経営者としてマス・メディアに頻繁に登場し,その言動が注目されていたこともあり,本件の発覚が経済界はもとより一般社会に与えた衝撃は多大なものがある。
客観的に明らかな事実に反する供述をするなど,不自然,不合理な弁解に終始しており,前記のとおり多額の損害を被った株主や一般投資者に対する謝罪の言葉を述べることもなく,反省の情は全く認められない。
(有利な事情)
 粉飾額自体は過去の事例に比べて必ずしも高額ではなく、被告人が本件各犯行を主導したとまでは認められないこと,グループすべての役職を辞したこと,3か月以上にわたり身柄拘束されたこと,マスコミ等で本事件が社会的に大きく取り上げられ,厳しい非難にさらされるなど,一定程度の社会的制裁を受けていること,前科前歴がないなど。

 結論としては、有利な事情を考慮してもなお,被告人に対しては,実刑をもって臨まざるを得ないと判断しています。

 証券市場の公正性という社会的法益への影響力の大きさや、「エースマエケン」事件で司法への信頼という国家法益への影響力も重視され実刑となった事件とのバランスも考えると、実刑の判断もやむを得ないのかなぁとも思いますが、違反の事実がそれほど重大なものでなく、個人的損害を被ったとされている方の大半と和解が成立していること、これまでに被告人の受けた社会的制裁の大きさなどから、実刑まで受けさせる必要があるのか、被告人の才能を社会の活性化のために役立てる方向での更生という方法もあったのではないかと思います。特に、今回の件での社会的影響力の捉え方次第では、出る杭は打たれる感は、否めません。

 そんなホリエモンの記事の横に、大麻取締法違反事件で懲役1年6月の実刑を言い渡されていた被告人が、保釈中に東日本大震災の被災地でボランティア活動をしていた点を考慮されて、実刑判決が破棄され執行猶予となったという記事が載っていました。

 堀江元社長も、義援金として100億円をドーンと寄付した某社の社長のように、マネーゲームで得たとされるお金を社会貢献のため費やし、その才覚で復興支援に積極的に協力できていたら、塀の中(刑務所)に入ることはなく、堀エモン(ホリエモン)がエモン(ヘイエモン)にならなかったかもしれませんね。

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