「エースマエケン」への期待(証拠改ざん事件)

下宮 憲二

こんにちは、広島事務所の下宮憲二です。

 プロ野球開幕戦、広島東洋カープのエースマエケンこと前田健太投手が開幕試合を落としてしまいました。昨シーズン投手部門三冠を獲得し期待が大きかっただけに、前田投手には、相当な重圧があったと思います。残念な結果となりましたが、私の前田投手への期待は一縷も揺らぎません。次回の完封勝利を楽しみにしています。
 そんな、開幕戦の記事が載っている紙面にもう一人のエースマエケンの記事が載っていました。大阪地検特捜部の元エース、前田元検事(略して、マエケン)に、懲役1年6月の実刑判決が言い渡されたという記事です。
そこで、今回は前田元検事の記事について触れてみます。

 証拠改ざん事件は、前田元検事が検察側に不利となる証拠があることを知りつつ、元厚生労働省局長のMさんを文書偽造の容疑で逮捕、起訴し、証拠のフロッピーディスクの更新日時を改ざんしたというものです。
 ここで、私が疑問に思ったのは、検察側のシナリオに合わない証拠があるにも関わらず、強制捜査に踏み切ったことです。逮捕という行為は、人の身体を拘束するばかりでなく、逮捕されたという事実自体が逮捕された人及びその家族等の社会的評価を著しく低下させるものです。特に、検察が逮捕を行う場合は、有罪である可能性が非常に高く、ある程度裏付け捜査が進んだ段階で慎重に行うはずです。逮捕したが、起訴できなかったでは検察の信用性にも大きく影響します。超大物政治家の事件等でなかなか逮捕がなされないのも、逮捕に伴う影響力が多いに関係しています。
 前田元検事は、検察に不利な証拠の存在を知りながら、上司に報告することなく、Mさんを逮捕したとされています。
 逮捕後、Mさんの取り調べの中で、Mさんは無罪主張をしているはずですから、その主張が成り立つのかどうか、先のフロッピーディスクの存在と照らし合わせるなどすれば、このままMさんの有罪立証が可能かどうか、十分に判断が出来たのではないでしょうか。検察官は、有罪獲得だけでなく真実の発見をその責務としているのですから。
 しかし、前田元検事は、このフロッピーディスクの存在を知りつつ起訴しています。検察官が起訴するということは、検察としてはMさんが犯罪をしたことが間違いなく、その立証も十分出来ると判断したということを意味すると思います。被告人が、実際に犯罪を犯し自白していても、裁判で一転否認することだってあり得ます。検察は、そのような場合に備えしっかりとした客観的証拠を収集しこの証拠によって立証可能な準備をしているはずです。自白している事件でもそうなのですから、否認事件ならなおさら、被告人の自白がなくても客観的証拠だけで立証できる万全の態勢をとっているでしょう。起訴したけど、無罪でしたでは、検察の面目は丸潰れとなってしまいます。有罪率99%も、実は、立証に自信のない事件は起訴がなされないことがその要因となっています。合格率をあげるための試験の受け控えに似てますね。
 今回の事件では、Mさんを起訴した後に、フロッピーディスクが公判に持ち出され紛糾することや、前田元検事が、上司から叱責されることを恐れて、証拠改ざんを行ったとされています。

 なぜ、前田元検事は、このようなことをしてまでMさんを起訴したのでしょうか。
 前田元検事は、特捜のエースと呼ばれていたようで、まわりからの期待はかなりのものだったと思います。そこへ、郵便割引制度の悪用に厚生労働省の役人が関与しているのではないかとの、日本の行政組織への信頼を揺るがすような事件が発生。事実だとしたら、徹底的に追及しなければならない事件です。前田元検事は、開幕投手並みの期待と重圧を感じていたのではないでしょうか。不正を行った者に対して法の裁きを受けさせなければ。なんとしても周りの期待に応えたい。そういった思いが、証拠改ざんの一因となったように思えます。

 Mさんは、前田元検事は国民に責任を感じているのではなく、自分が所属した組織に迷惑をかけたことについて「申し訳ない」と述べているとしか思えないとコメントされています。

 元エースマエケンへの期待が、自分のチーム(組織)からだけでなく、その後ろにいるファン(国民)からのものであることにも思いをはせていれば、今回のような結果にはならなかったかもしれませんね。

前のページへ戻る