2つのハニカミと修正能力

蓮見 和章

広島事務所の蓮見です。

「(この2年間)全然つらくなかったですよ。」
昔のようなさわやかさのないハニカミ顔でコメントしたこの言葉、久々に感動しました。そのつらさは痛々しいほど伝わってきましたからね。

昨日ゴルフ石川遼選手が2年ぶりにツアー優勝し、史上最年少でプロゴルフツアー10勝を達成しました。石川選手はまだ21歳、これまでの記録が池田勇太選手の26歳ということを考えればとてつもない大記録で、改めて遼君のすごさを感じますが、そんな遼君でもここ2年間一度も勝てなかったということで昨日は涙を流していましたね。

この間、世間的には「調子に乗って練習しなくなったから弱くなった。」とか「彼女にかまけてゴルフに対する情熱がなくなった」等不調の要因を指摘する声もありました。しかし、専門家から言わせると、遼君はこの2年間、将来世界のトッププロに対抗できる力をつけるために一度自分のプレースタイルを壊し、これまでのシンプルにピンをまっすぐ狙うゴルフをやめ、状況に応じて様々な球種を打てるように努力していたそうです。そのままのゴルフでもある程度勝てたかもしれません。それでも「このままでは世界に通用しない。」と自分の目標の実現のために長所をも消して試行錯誤した遼君、思ったより結果がでず、周囲の声に押しつぶされそうになったこともあったと思います。そんな中での復活優勝、「2年前とはまるで別人。」それは彼の表情からも明らかでした。最高の地位を築きながらあえてリスクを取って自分を変えることに挑んだ遼君。この2年間の苦しみによって彼がメジャーでも通用する技術を身に着けたのであれば、アスリートとして、いやひとりの人間としてとてつもない修正能力をもった21歳だと思います。

修正といえば、本来法律は社会環境の変化によって絶えず修正を余儀なくされます。道交法の改正や危険運転致死傷罪の創設は飲酒運転による残虐な事故が多発したことによりますし、経済状況が変われば消費税増税など税法が変わります。三権分立がなされている日本では、立法府にあたる国会において社会情勢を踏まえて現状に即して法律を定め、逆に時代にそぐわない法律については廃案や修正をすべきか否かを決定します。そう、民意により選出された国会議員は常に現代社会の情勢を認識しようと努め、制定されている法令との齟齬が生じていないか議論している。・・・はずなのです。

先日、元交際相手の逆恨みによって主婦が命を奪われるという事件が起こりましたね。ニュースによれば、一度逮捕され罪を受けたもののその後も主婦に対してメールを頻繁に送っていて、被害者はそのことを警察に相談していたにもかかわらず警察は彼を逮捕できなかったといわれています。また、警察、前回犯人を逮捕したときに主婦の結婚後の名字や住所の一部を犯人に漏らしていたということも問題とされています。

確かに警察の一連の対応にまったく問題がないとは言えません。ただ、ストーカー規制法に頻繁なメールを処罰する規定がない以上警察の権力を発動して逮捕するわけにはいきませんし、刑事訴訟法が定める被疑者の防御権の観点からは、被疑者に対して被害者特定のための情報教示をある程度要請されるのは当然のことです。法律に規定されていなくても処罰できるとしたら、あいまいな事例で捜査当局の強権発動で不当逮捕することも可能になってしまいますし、「被害者は教えられないけど犯罪行為をしたので逮捕します。」では、万が一誤認逮捕であった場合、被疑者はどうやって冤罪を訴えていけばいいでしょうか。

もっとも、本件のような携帯でのメール送信が日常生活で一番の連絡手段となっている現代社会において、2週間に1000通ものメールを送ることは常軌を逸したストーカー行為といえることは明らかですし(現に、DV保護法下での保護命令の場合は、電話やFAXに加えてメール送信も禁止できるようになっています。)、ストーカー属性のある人物に被害者の住所等を教えれば、その後の嫌がらせが行われる可能性も大きいことは容易に想像できます。

要は、法律(被害者の情報開示に関しては法律ではなく通達等の問題かもしれません)が現代社会のストーカー行為をきちんと規制できるようにつくられていないのだと思います。

ストーカー規制法は、あるJRの駅前で凄惨なストーカー殺人が起こったことがきっかけで社会問題になり、2000年に制定されました。が、当時はメールが普及していなかったため電話やFAXとは一線を画し執拗なメールは規制の対象外でした。しかし、その後メールの発達により、被害者にとって執拗なメールは他のストーカー行為以上に恐怖を覚える行為となってきました。法律相談でも、ストーカー行為のお悩みの方の中でメールによる被害を相談される方は非常に多いですし、おそらく今回の事件のように警察に相談されたけどなしのつぶてだったというケースも相当数あったと思います。この点では、法令と現状に齟齬があったことは明らかであるといわざるを得ません。

その中で起こってしまったこの事件、もちろん頻繁なメール行為が規制されていたからといって防げていたかどうかはわかりません。しかし、立法府の問題として、この事件が起こったから法整備を整えようというのでは、あまりに遅きに失すると思います。

もちろん行政に対する責任追及も国会の重要な仕事の一つだと思います。ただ、立法府である国会は現行のストーカー規制法が時代に即したものであるかについてどれだけの議論を尽くしていたのでしょうか。ストーカー規制法の制定で満足せず、その法律の不備があれば現状に即して修正しようとする姿勢を国会の構成員である各議員は持っていたのでしょうか。

「近いうちに解散」の「近いうち」はいつかについて国会で議論されているというニュースの中で、首相に質問できたことで満足げにハニカむ野党議員の顔を見て、ふとそんなことを感じてしまいました。

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