実名をみんなで流せば怖くない!?(光市母子殺害事件報道)

下宮 憲二

こんにちは、広島事務所の下宮憲二です。

 大阪の鳥居弁護士もブログで触れていましたが、光市母子殺害事件について最高裁で判断がなされました。この事件は、事件の重大さはもちろんのこと、広島弁護士会に所属する会員が元少年の弁護団に加わって活動しているということもあって常に気になっていた事件でした。

 今回、死刑判断が維持されるということは予想していましたので、判決自体については驚きはなかったのですが、私が一番驚いたのは元少年の実名を一部を除く報道各社が一斉に報道したことです。中には、元少年の過去の顔写真を報道しているものもありました。見た瞬間、「え!?いいの!?」と思いました。

 少年事件と実名報道については、これまで何度もマスコミなどに取り上げられ、その度に様々な見解が述べられています。少年法61条には、「少年のとき犯した罪により公訴を提起された者については、~本人であることを推知することができるような記事又は写真を新聞紙その他の出版物に掲載してはならない。」と定められています。この法律に今回の各報道機関の行為をあてはめると法の文言に反しているということになります。

 しかし、各報道機関は、実名報道をした理由について「今回の裁判所の判断により元少年の更生の可能性がなくなったため」などと説明し自らの行為の正当性を主張しています。これってどういうことなのでしょうか。

 少年法61条の趣旨は、未成熟な少年を保護し、その将来の更生を可能にするためのものであるとされています。そうであるならば、少年の保護の必要性や将来の更生の可能性がないのであれば同法を遵守する必要はない、つまり、報道してもよいとの論理になるのかと思います。

 確かに、犯罪行為自体を認めている事件において、死刑判決が確定すると、被告人は刑の執行を待つ身となり社会復帰する可能性はほぼないことになります。これを捉えて将来の更生の可能性がないと言うのもひとつの見解だと思います。ただ、そこには、社会内での更生の可能性という限定がなされているように思えます。M日新聞などは、「更生」の定義を広辞苑から引用して被告人の内心に着目した更生の可能性を示唆し、実名報道をしていません。

 では、今回の事件とは別の同様な少年事件で、無期懲役が確定したが直後に被告人が死亡してしまった場合も将来の更生の可能性がないので実名報道するということになるのでしょうか。被告人が、これまで重大犯罪を繰り返し、全く反省の態度を示さず、次回の犯行も予告しているような状態であるような場合も将来の更生の可能性がないということで実名が報道されるのでしょうか。

 少年の更生か、国民の知る権利か、被害者の方の利益保護か、そこにはいろいろな考えがあると思います。

 しかし、各報道機関が、視聴率を得たいがために、独自の法解釈をもって法の文言に反する行為を行うことに問題はないでしょうか。加えて、そのような行為を、各社が一斉に同様な理論で行うことに違和感はないでしょうか。一方で、人気アイドルグループの親族による不祥事がテレビでは報道されないと言われることに恐ろしさを感じないでしょうか。

 赤信号を守るのは、道路の危険を防止し交通の安全を図ることが趣旨だ。でも、自分が現在止まっている信号付近では誰かが通行する様子はない。道路の危険が存在しない以上信号は守らなくてもよいという理論が成り立つように思えます。

 加えて、一人だけだったら捕まったりするかもしれないけど、周りのみんなが一緒に渡るのなら、赤信号みんなで渡れば怖くない、と言う思考につながるように思えます。

 実名報道には、罰則規定がありません。そのため報道機関の自主的規制と言われています。ただ、実名報道により被害が発生した場合には、元少年等から損害賠償請求をされる恐れがあります。

 そんなリスクがあったとしても、視聴率のために、実名をみんなで流せば怖くないという発想が今回の報道の根底にあるとしたら、まさにみんな敗者であるのかもしれませんね。

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