夏の甲子園の大誤審!?~バントの定義とは
こんにちは、弁護士の蓮見です。
さて、夏の甲子園、終わりましたね。今年は例年以上に好試合が多く最後まで手に汗握る試合が多かったと思います。特に準々決勝の4試合はどの試合も1点差で最終的に優勝した前橋育英も9回2アウトランナーなしでセカンドゴロと試合寸前まで追い込まれながらの勝利。まさに漫画のような試合展開の連続でしたね。
今年は春も夏も2年生エースが優勝投手になるなど、2年生の活躍が顕著だったので早くも来年の甲子園が楽しみです。
ちなみに甲子園での成績を踏まえて高校代表として選抜された22人の選手のうち(投手は7人)、広島から瀬戸内高校の山岡投手、広島新庄高校の田口投手の2人が選ばれてました。やはり、激闘を演じたあの広島県大会決勝は全国で7本の指に入る投手がぶつかった高レベルの投手戦だったということです。山岡投手の投球はあのダルビッシュ投手も絶賛していたようですし、2人の将来の活躍が楽しみです。
ところで、この甲子園で、終盤ルールに関してちょっとしたニュースがあったたのをご存知でしょうか。
準々決勝の後に、大会本部がある選手がファールをするためにカット打法をしているとして、今後のその打法が「バント」とみなされる可能性があると通告したのです。「バント」とみなされると2ストライクからカット打法がファールになった場合は3バント失敗でアウトになってしまいます。(公認野球規則6.05 では打者が2ストライクの後の投球をバントしてファウルボールになった場合はアウトとすると定めているため。)
報道によれば、バントの定義を独自に定める高校野球特別規則で規定しているための通告とのことですが、世間では、特別規則があるとしてもなぜこれまで容認してきたのに(現に当該選手は地方予選からこの打法を続け、準々決勝でファウルを連発して相手投手に一人で41球も投げさせる等、カット打法で大活躍していた)ここにきて初めて通告するのか。といった批判が多く出ているようです。
もちろんこの批判は当然だと思います。3年間高校野球を続けてきて最後の大会のしかもあと2試合しかない時点でこのような通告をされても、選手は戸惑いますし、これまで敗退してしまった選手に対しても失礼だと思います。しかし、通告の時期云々の前に、公認野球規則及び高校野球特別規則をよく読むと、この規定自体に非常に大きな欠陥があるのではないかと感じます。
まず、公認野球規則はバントに関してこのように定義しています。
(公認野球規則2.13)
BUNT「バント」-バットをスイングしないで、内野をゆるく転がるように意識的にミートした打球である。
次に、問題の高校野球特別規則はバントの定義として以下の条文を定めています。
(高校野球特別規則17条 バントの定義)
バントとは、バットをスイングしないで、内野をゆるく転がるように意識的にミートした打球である。自分の好む投球を待つために、打者が意識的にファウルにするような、いわゆる“カット打法”は、そのときの打者の動作(バットをスイングしたか否か)により、審判員がバントと判断する場合もある。
さて、皆さん。この規定をよーく読んでみて高校野球特別規則がバントの定義についてどのような違いを定めているかお分かりですか?
・・・・・分かりませんよね。
意識的にファウルにするような「カット打法」に関しては審判員の判断によりバントとみなす可能性を残す点では特別規定を定めているようにも思えますが、その判断基準として「(バットをスイングしたか否か)」と規定している以上、結局バットを「スイング」したか否かでバントかどうかが決まると解釈できます。そうすると、特に公認野球規則とは違う特別な規定を高校野球特別規則が定めているわけではないとも読めます。
そうであれば、特に高校野球特別規則に「スイング」を定める規定がないので、公認野球規則で許される打法であれば、今回のケースも通告される言われはないということになります。すなわち「高校野球なので特別」という言い訳は成り立ちません。プロ野球でOKであれば今回もOKということになります。
また、仮に審判団の判断によりバントとみなす可能性がある点で高校野球特別規則は意味があるという解釈を強引にしたとしても、それはそれで非常に問題だと思います。
なぜならこのような規定では、どのような打ち方であれば大丈夫でどのような打ち方ではだめなのかはっきりしないからです。しかも、この規定は「カット打法」をしたとしても審判員の判断ではバントと判断しない場合もあると解釈できますから、同じ打ち方でも審判によってはバントとなったりならなかったりするということです。
このように基準が明確にされずに、審判の「恣意」に近い形で判断がなされるのであれば、選手は委縮してしまい誤解されないような打ち方をせざるを得なくなります。
実は法律の世界では、明確性の原則といって、対象者が表現行為等で委縮しかねないあいまいな制限規定を設けることは違憲・違法とするという考え方があります。野球規則は一つのゲームのルールにすぎませんが、あらかじめ規制の対象が認識できてこそ初めてルールとして成立するという点は野球規則にも当てはまるものだと思います。そうであれば、この高校野球特別規則17条そのものに大きな欠陥があるものと言わざるを得ません。早急に条文の文言を再検討する必要があるのではないかと思います。
このように今回のカット打法に関しては解釈そのものも大いに疑問が残るところですが、加えて試合前に個別のチームに対して大会本部から通告したこと自体も非常に大きな問題だと思います。一般論としてルールの説明をするのであれば出場校すべてに大会前に説明するのであれば格別、個別の選手の打法に関して、試合前に当該校に通告するのは対戦相手に対して不公平です。対戦相手としても試合中にカット打法がバントと判断されれば1アウトとれることになるのになぜわざわざ事前に教えるのかということになると思います。
そもそも、公認野球規則及び高校野球特別規則は、あくまで試合の中でのルールを規定しているはずであり、その判断は試合を担当する審判が試合中にその都度判断すべきものです。特に「スイング」したか否かの判断はその時々の選手の動作を見て判断すべきであり、かつそれで足りると思います。わざわざ事前に通告することに意味があるとすれば試合を担当する審判員が「バント」と判断することにお墨付きを与えておくくらいしかありません。結局のところ、各審判があいまいな規定の中でカット打法を「バント」すなわち「スイング」していないと自信をもって判断することができないから、バントにするということで事前に統一しておこうという大会本部の意図が透けて見えてしまうのです。
審判も人間ですから試合中の判断に間違いはあると思います。試合中に明らかな誤審をしても、それはそれで後で覆ったりしないのは、その時に審判が最大限の注意を払って下した判断は真実がどうであれ最大限に尊重しなければならないという暗黙の了解があるからだと思います。しかし、その審判が試合中の判断を放棄して事前に通告という形をとるというのであれば、話は別です。前述の条文の解釈を含め、明確な説明がない以上納得できるわけがありません。
その意味では、今回の大会本部の判断、条文解釈も当該校への試合前通告という形をとったことも「許されざる大誤審」と言わざるを得ないのかもしれませんね。