冤罪なくす「大富豪」地方ルール(福井中3殺害事件再審決定)
こんにちは、広島事務所の下宮憲二です。
「大富豪」というカードゲームがありますよねぇ。手持ちのカードを順番に場に出して、一番先に手持ちカードがなくなった人が勝ちとなるゲーム。修学旅行などに行くと無性にやりたくなるあれです。初めから強いカードばかり出してしまうと、弱いカードばかりが残ってしまうし、弱いカードばかり出していると、他のプレーヤーに先にあがられてしまいます。いつどこでカードを切るのか、適切な判断が要求されます。相手がどんなカードを持っているのか、いつ使うのか、初めから強いカードばかり出すのは手持ちカードがいいからなのか、はったりなのか。様々な駆け引きがなされ、プレーヤーの性格が前面に出てくるゲームなので、私は大好きです。このゲーム、最終的には、各プレーヤーが手持ちカードをすべて明らかにすることとなりますが、地方によっていろいろルールが異なるようで、出身地の異なる人とプレイすると様々な地方ルールに触れることが出来ます。
訴訟における証拠の提出も、「大富豪」でカードを切るのに似たようなところがあるのではないかと思います。例えば、相手がウソを言っていることを証明する証拠を出す時などは、初めから証拠を提出して相手に言い訳されるよりも、相手にとことんウソを言わせておいて「じゃあ、これは何?」といった具合に出すほうが効果的な場合もあります。証拠を出すことで、裁判官に変な予断を与えてしまいそうな時は、出さないという判断もあり得ます。
相手がどんな証拠を持っているのか、いつ出してくるのか。強気の主張を展開しているがちゃんと証拠がそろっているのか、こういった相手の出方に対して適切に反応していくところに代理人としての力量が問われている気がします。訴訟では、「大富豪」と違って、最終的にすべての証拠が法廷で明らかになるわけではないので、出すとまずいカードは相手に知られないままとなってしまいます。
では、刑事訴訟で検察官が立証に不利なカードを出さないとどうなるでしょうか。捜査機関には、強力な捜査権限が与えられています。また、その人的物的規模は被告人が独りで太刀打ちできるようなものではありません。捜査がなされれば、ほとんどのカードをがっさり持って行ってしまいます。弁護人に残されるカードはほとんどありません。そして、検察官は、自分が使うカードしか見せてくれません。つまり、検察官に不利なカードは、検察官以外の目には触れないのです。現在は、公判前整理手続により証拠開示の範囲が飛躍的に拡充され、一定の事件において、弁護人が、検察官の手持ちカードを見ることが出来るようになりましたが、この制度においてもカードをすべて見られるとは限りません。弁護人が、検察官に不利なカードの存在を知らない状態で、刑事裁判がなされているのが現状です。そして、裁判が終わっても不利なカードは明らかになりません。その結果として、今回再審決定のなされた福井中3殺害事件のような裁判がなされたのではないでしょうか。
今回の再審請求においては、弁護人からの再三の開示の求めや裁判所からの勧告に従い、検察側が証拠を開示したことが再審決定につながったと言われています。仮に、この事件に対して、今後無罪と判断されるようなことになるのであれば、初めから全てのカードが明らかになっていたらと思わざるを得ません。
今後冤罪をなくすためには、いつも独り勝ちのプレーヤーの手持ちカードについては、すべて開示した状態でプレイするといった地方ルールが、必要なのかもしれませんね。