「最低限」の生活と「最低限」の見識
広島事務所の蓮見です。
さて、昨日行われたサッカーW杯の最終予選、皆さんご覧になったでしょうか。今月から始まった最終予選ですが、先の2戦は文句の付けようがない出来で最終予選とは思えない程の楽勝ムードがありました。そんな中迎えたライバルオーストラリアとの一戦、結果は1-1のドロー。最悪のピッチコンディション、相手サポーターからのブーイング、相手のフィジカル重視のプレースタイルに手を焼いたのはもちろんですが、なにより審判の不可解な判定にやきもきした方も多かったのではないでしょうか。最後も本田選手がフリーキックを獲得して、「さあ、最後のワンプレー」と思った場面での終了のホイッスル。これまでそれなりにサッカーの試合を見てきましたが、あんな終わり方は初めてで、なんか不完全燃焼な感じになってしまいました。
これは問題なのではと調べてみたのですが、ロスタイムの時間をどこで打ち切るかは審判の裁量に任されていて、特にフリーキックの場面では試合終了してはいけないという規定は無いみたいです。ただ、これがPKだった場合には、得点の大きなチャンスにも関わらず試合終了となるのはアンフェアとの理由で、そのPKが完了するまでは試合を終了できないとされているようです。得点のチャンスという意味ではあの位置でのFKも十分なチャンスがあったと思うので(特に本田△選手はこのところ絶好調で圧倒的な存在感を誇っていたので、あのFK決めてくれたんじゃないかと思ってしまいます。)審判もPKの規定の趣旨を尊重して、FKが終わるまで試合を終了しないで欲しかったところですが、これも裁量なので仕方のないことかもしれません。
まあ、スポーツの世界では、最近ニュースになっている司法の再審制度のよう制度はありませんので、誤審を嘆いても結果が変わる可能性は極めて低いです。日本代表の「最低限」の目標は、最終予選突破でかつそれで十分なのですから、グループ最大のライバルとのアウエーでの引き分けは、及第点だと思います。これから1年に渡って戦いが続きますが、選手達にはブラジルの本大会に向けて是非頑張って貰いたいです。
さて、「最低限」と言えば、最近では生活保護問題が本当に大きなニュースになりました。生活保護を指摘された芸能人、芸能人を名指しで指摘した政治家、それぞれの言動に対する批評がまた別の所で波紋を呼び、結果として、皆さんも生活保護を巡っていろいろな思いを抱いたのではないでしょうか。
相川弁護士のブログにもありましたが、生活保護制度は、憲法25条に規定する生存権=健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を具体化するものとして、「最低限」の生活を送るために支給されるものです。
この「最低限」の生活とは、どのような生活なのか。扶養義務や生活保護問題を考える上で、このキーワードは切り離せないと思います。「最低限」をどのような生活と捉え、どこで線引きして生活保護の受給要件にするのか、この点が曖昧だった中で、不景気により国民全体の生活レベルも徐々に下がってきてしまったことが今回のような不正受給疑惑の問題が多く生じてしまった一因ではないでしょうか
実のところ、生活保護がなければ今日一日生きられない人、不景気等により働きたくても働けない人は多く存在しますし、何らかの理由で生活保護受給を諦めてしまい、その結果孤独死などで発見されるケースもニュースになったりします。したがって、そのような方が生活保護受給をためらうような印象を与えてしまうような生活保護バッシングには気をつけたいところです。ただ、その一方で生活保護はあくまで「最低限」の生活ができるための補完的なものという認識も必要だと思います。
今回の話題になったケースよりも、貧困ビジネスや明らかに収入について嘘をついて受給しているケースなど、生活保護に関する悪質な問題は多々あると思います。ただ、今回のニュースを通じて、そういった問題を含め、生活保護のあるべき形について議論が深まるのであれば、それはそれで意味のあることだと思いますので、今後しっかりと議論されることを期待します。
ところで、ある芸人は、謝罪会見で「芸人の収入が不安定で」「芸人保険というものはないので」と話したのに対して「今はサラリーマンでも不安定だ」「芸人は自分が好きでやっているのだから仕方がない」との批判がなされていました。確かに、その批判は的を得ていますし、その意味で芸人自身が認めるとおり認識が甘かったのは間違いないと思います。
ただ、そもそも生活保護は、「最低限」の生活を自力でおくることが出来なくなった時になって初めて支給されるものです。決して「収入が不安定」で将来が不安なら受給できるというものではありませんし、将来の保険代わりに前もって受給できるものでもありません。売れっ子芸人でも、サラリーマンでも、収入が安定していると言われる公務員でも、将来何らかの事情が生じ、「最低限」の生活が出来なくなった時には生活保護を受けることで「最低限」の生活は守られる。将来の生活不安が実現した際には「最低限」の生活は補償しますよというのが生活保護であって、不安なので先取りして貰っちゃいましたというのは本来あり得ない話なのです。
そう考えると、ある芸人の発言は、直接自己が貰ったものでは無いことを考慮しても、勘違い甚だしいものです。認識が甘かったというよりは、生活保護に関して完全に間違った認識をしていたという方が正しいのかなと思います。身内が生活保護を受けているのであれば、生活保護に関する「最低限」の見識は持ってほしかったですね。