スポーツのルールと法律と弁護士業務
パリオリンピックもいよいよ終盤戦に入りましたね。日本勢のメダルラッシュが続き、寝不足ながらも充実されている毎日を送る方も多いのではないでしょうか。先日ある知人から「今回のオリンピックの金メダルは弁護士バッジに似ているよね」と言われて、そういわれるとそう見えるなあと思いながら、私も毎日何らかの競技を見て選手たちを応援しています。
今回は、いつも以上に審判の判定が話題になっているように感じます。そこで、ここではオリンピックのケースから、日常の裁判や弁護士業務についてお話できればと思います。
ルールには、スポーツでも法律でも大きくわけて2つのタイプがあると思います。厳格な数字や具体的な定義で多くの方は一見してわかるように一律決まるものと、抽象的な定義で審判の判断に委ねられるものがあります。前者は、スポーツでライン上に乗っているかどうか(例えばサッカーW杯での三苫の1ミリ)や法律上の時効の条項などが当てはまると思いますし、後者では、柔道の「指導」やサッカーのイエローカードの定義、法律上の離婚事由の一つ(婚姻を継続しがたい重要な事由)などがあるかなと思います。
弁護士としては、一律にわかるルールについてはもちろん、法律上一律に決まると言えない事例に関して、過去の裁判例や当該条項の趣旨から、相談者に見通しや今後の対応をアドバイスしたり、裁判になれば裁判官を説得する作業(証拠の収集や提出を含む)をするのが仕事になります。裁判所は、まさに起こっている事例を提出された証拠から判断して、その上でルールをどう適用するかを判断することになります。
ただ、そのような作業をしていく中で、時として「これって法律自体がそもそもおかしいのではないか」と思うような事例も出てきます。どんな法律でも憲法に反して当該法律が作られているものと言えるようなものであれば、ルール自体の無効を裁判を通じて訴えていくことができます。最近だと婚外子の相続分や女性の再婚禁止期間などが憲法が定める平等原則に反するという判例が出て、民法の条項が変更されたりしています。
スポーツでも、ルール自体がそのスポーツの本来の姿にそぐわないとしてルール改正されることは頻繁にあるかなと思います。
例えば、先日のオリンピックのサッカー日本代表の試合では、相手DFを背負ってボールを受けたプレイヤーがその後ゴールを決めたものの、背負ったさいに足の一部が相手DFの足よりも前にでていたという理由でオフサイドでゴール取り消しとなりました。これは一律に明確なルールですのでオフサイドであることは皆さん納得されていると思います。ただ、当該相手DFですらオフサイドのアピールもなく、オフサイドはもともと待ち伏せ行為の禁止がルール化された趣旨ということに鑑み、このルールでいいのかという点でいろいろな意見も出ていたように思います。これをきっかけに背負われた際にDFも自分と相手FWの足の位置を今以上に気にするようになるかもしれません。そんな対策が進み将来的に同様のケースでオフサイドの判断となることが散見されるようになれば、ルールの改正が議論される可能性もあるかもしれませんね。もちろんこのケースは戻りオフサイドの一例であってオフサイドの趣旨からしても問題はないという見解もあるようですが、サッカーの本質とは何かというところから専門家の方が議論を交わしてよりよりルールになればそれはサッカーにとってもいいことかなと思います。
いずれにしても、スポーツでも法律でも、ルールがよりよいものになるように議論されていくという意味では、いろいろな事例に対する判断がなされて、多くの議論が交わされていくことは健全なことかなと思います。ただ、当事者にとっては、一生を変えるような判断になってしまいますから、アスリートが勝利のために現行ルールの中で全力を尽くすと同じように、代理人となる弁護士としては目の前の事件については依頼者のためになるように法律の枠の中で最善を尽くさないといけません。現状のルールの下で真摯に挑むということを経るからこそ、社会のため、当該スポーツのため、ルール(法律)はより良い方向にかわっていくのかなと感じながら、あと数日間のオリンピックも楽しんで観戦したいと思います!